ハイケアーの仲間にはこの十数年間お世話になりっぱなしで、恩を返すことだけが生きがいになっており、モチベーションの源泉となっている。残り10年あるかどうかの状況であるが、とにかく目標に向かって突き進むしかない。
フェーズ1と位置付けたハイドロポッドのマーケット実証を、5年間無事故で達成し、フェーズ2と位置付けるハイドロアイスのマーケット実証段階に入り、同時にフェーズ3の社内実証も開始した。まだまだ先は長く、未だ何一つ社会に貢献していないが、少なくともそこに至るための歩みは着実に進めてきているので、ここまでのプロセスでどうしても忘れたくない事象を記録しておく。
2021年3月、コロナも徐々に収束し、ハイドロポッドの販売も少しづつ上向きつつある状況で、脳梗塞を発症した。発見されるまで2日もかかったため、右半身不随となり重篤な後遺症は避けられない状況であった。同時に糖尿病を患っていることも判明した。自らの不摂生が要因と考えられ、人の同情を得られるものではなかった。1週間もすると少しづつ頭が回るようになり、一体これからどうやって生活すれば良いのか考えるようになった。家族がいないため、退院しても身の回りの世話をする人がいないし、働けないので収入も無くなる。不安で仕方なかった。仕事のことも考えた。夢への第一歩であるはずのハイドロポッドも早々に終焉を迎えてしまったな、と。2018年に受託した、MgH2を燃料としたハイブリットFCV用の100l/分、大容量水素発生システム開発中に起きた社内爆発事故が原因でエンジニアが皆辞めてしまい、私もすんでのところで命拾いしたものの、大やけどを負い、水素関連業務は、深夜か、土日祝日限定で一人で行うような状況だったので、私以外にハイドロポッドを製造できる人がこの世にいなかった。
ある日”血糖値”という言葉を12時間唱え続けた日があった。唱え続けても10分すると忘れてしまうので、延々と繰り返したが、12時間続けても覚えられず、しまいにはおむつに大便を垂れ流していたので、自分の姿に呆れてしまい、”俺もう終わったな”と口に出して呟き、意気消沈して芋虫状態で後始末をしていると、なぜかこれまで世話なった人たちの顔が走馬灯のように浮かび上がり、こんな状態で夢を諦められるのか、恩返しもせずに終われるのか、という強烈な思いが込み上げてきて、とにかく回復に向けて出来るだけのことをやってみよう、という気持ちになり、直ぐにリハビリ病院に転院する手続きを取った。脳梗塞発症後2週間でリハビリ病院に転院し、1ヶ月でリハビリ病院も退院し、ハイケアーステーションの工場内で生活することにした。リハビリ病院退院時、ハイケアーメンバーのトライコ、マット、ティモティー、アントンが駆けつけてくれ、この時私は彼らにお願いをした。ハイケアー製品の製造をみんなでやってくれないか、と。皆二言返事で”もちろん協力するよ、週末とか夜中になるけど”と言ってくれ、すぐに彼らとの二人三脚が始まり、彼らは文字通り私の手足となった。最初の一年間はマットが一番頑張ってくれた。身動きの取れない私の身の回りの世話もしてくれ、仕事終わりに朝マックを一緒に食べるのが日課だった。親以上の大事な存在だと言ってくれた。私も子がいたらこんな気持ちになるのかな、と思いながら接していた。マットは家庭環境に問題があり、精神を病んでしまい、今はオーストリアの工事現場で一人で働いている。ハイケアーが収益を出せるようになったら真っ先に呼び戻したい。マットの入れ替わりでブロディーが半年間毎日のように頑張ってくれてたが、ブロディーのプライベート写真を無断でSNSに投稿するという事件が発生し、その時点で既に色々と噂になっていたため、ブロディーは不信感を抱き、かかわりを避けるようになってしまった。人として非常に優秀で、大いなる将来性を感じさせる尊敬に値する男だったので、本当に申し訳なかったと思うと同時に、非常に残念だった。その後はトライコが中心となって、ティムとトムが協力してくれている。
なぜトライコが長年日本一の外人モデルだったのか、一緒に働いてみてその理由がよくわかった。とにかく勤勉で時間を守る、不平を漏らさないし態度にも出さない。日本人独特の気遣いをするのである。来日当初はかなり趣の異なる男であったため、何でそんなに変わったのか聞いたことがある。すると彼は、”日本が自分を変えたんだ、日本に来るたびに色々経験して、良いなと思うことを自分に取り入れていたら、いつのまにやら自国の習慣に違和感を感じるようになっていて、今では日本の習慣やマナーがスタンダードで、トマス(息子)にもそういう教育をしている”というのである。つまり仕事においても、日本の習慣を理解して、便宜上意識的に取り繕っているのではなく、素のままで、日本の習慣を当たり前のように実行しているのである。そりゃー皆また仕事を一緒にしたいと思うし、日本一に君臨するのも当然である。これを聞いた時は、日本人として誇らしかった。一つだけ例を挙げると、彼は別れの際、相手が見えなくなるまで手を振る。日本人特有のわびさびを表現する習慣のように思うが、これは海外では珍しい。トライコ以外でこの習慣を常に実行するのはアンドレスだけで、正月に日本に来た時も私のタクシーが完全に見えなくなるまで立って私を見送っていた。彼の妹や友人が多数いたが、アンドレスが身動きしないため、皆何してんのと戸惑いながらも彼の行動に従っていた。彼はわびさびについてどこかで学び、良いなと思って自分に取り入れ、それを周囲の人たちに言葉ではなく行動で示していたと思う。彼とは長い付き合いなので、色々なことを学ばせてもらったが、本当に素晴らしい人間で、友人でいられることを誇りに思う。そんな彼が日本文化を啓蒙し、自分に取り入れ、更にそれを人々に伝えようとする姿勢に深い敬意を感じる。
トライコの話に戻るが、彼といつも一緒にいて感じたことがある。人間のオスとしての優秀さである。余程疲れていない限り、休みの日でもダラダラ寝ることはせず、常にやることを見つけそれをきっちり遂行して一日を終えるのである。エンジニアリングの仕事についても作業が異常に速い。細かい手作業が好きなのもあると思うが、覚えも早いしセンスが飛びぬけている。恐らくエンジニアの道に入っていても大成したであろう。そして何と言っても肉体が尋常ではない。ブルガリアでは毎日息子と農作業に勤しんでいるそうで、その農作業だけでバキバキの体に勝手になってしまうらしい。恐らくとんでもない量の農作業をしているに違いない。力も桁外れ。2人の大人が重くて運べない機器を軽々一人で運んでしまう。それでハンサムなのだから、あまたの女性が遺伝子を欲しがるのも納得がいく。自分と比較して、神様はどうしてここまで不公平なんだろうと思ってしまう。
ティムはトライコと正反対で、ダラダラといつまでも寝ているし、約束をすっぽかすことも多々ある。ただもうそういう奴と仲間に認知されているので、誰も文句を言うことはない。気が優しくて穏やかな性格の持ち主なので誰からも好かれる。仕事もスローかなと期待してなかったが、とんでもない能力を発揮することとなる。ハイドロポッドのアッセンブリーは、誰がやっても4~5%は不良が発生する。ところがティムは0%、何回やっても漏れないのである。プロとして非常にくやしくて、かなりの時間を費やして調査したが、結局判らずじまいで、以降該当業務は彼が専任担当となった。七不思議である。みかけによらない何か特殊な能力を身に着けているようである。その中の一つを我々はよく知っている。
私が絶対忘れてはならないことは。彼らはエンターテインメントビザ以外で収入を得ることは認められておらず、これらハイケアーの仕事で一切報酬を受け取っていないことである。ハイケアーの夢、目標を先人たちから聞き、それに賛同し協力を決意し、ハイケアーのポリシーの”人助け”を文字通り体現している。何とかハイドロアイスで収益を得て、これに報いたい。もちろん消費者にとってはただの水素活用機器であり、販売して収益を上げる、使用して満足感を得る、といったそれぞれの目的が達成されれば、後は知ったことではないし、興味もないであろう。ただ私たちにとっては、ハイドロポッドのシリアルナンバー一つ一つが、思い出の詰まった特別なものなのである。大事なことは我々の思いの籠ったハイケアー商品が人々に末永く愛用されることで、それ以外のことはもう過去のビジネスだし、割いている時間も無いので最早どうでもよい。強いて言えば、事故などないよう、安全に十分留意して使って頂きたい。
ハビリテーション病院に入院中に脳梗塞回復期の水素療法に関する論文をネットで調べていたところ、予防に関する論文は多々みかけるものの、回復期の論文は多くないことに気付き、これこそ最高の人体実験チャンスだと思い、退院後も毎日飲んでいた糖尿病と高血圧の薬を飲むのを止め、水素の大量摂取を始めた。言うまでもなく、医師の指導に従うことが第一だが、私の場合、自分で作った水素機器で人々に貢献することが人生の目標だから、このような絶好のチャンスを逃すという選択肢はありえなかった。8.0ppm以上の過飽和水素ナノバブルジャスミンティーを一日4l飲み、日中は350ml/分設定のインヘーラーを使って水素を吸いまくり、就寝時にマスクで7L/分吸入したら水素酔いの症状が出て、やったー!大発見と思ったら単なる窒息だったり、900Kpa仕様の水素ナノバブルサリーンを作ってワクワクしながら点滴しようと思ったら血管に刺さらず、36回も刺し直して腕が血だらけになってしまい、その痕を見たマットから”変な薬でも始めたの?”と真顔で質問されるなどという笑い話もあった。散歩リハビリによる筋肉痛で眠れないときは、ドーザーかハイドロショットを900Kpa設定で30分打ち込み、傷みに耐えられなくまで虫歯を放置して、水素を数十分大量に吹きかけると、数時間は傷みが緩和するように感じたこともあった。食事が重要であることは聞いてたが、忙しくてなかなか時間をかけることができず、4年間の主食は三ツ星ファームと鯖缶、朝マックで、清涼飲料水は一切飲まなかった。
このような生活を4年間継続した結果、血糖値は正常に戻り、今では軽いランニングができるぐらいまで回復した。呂律がたまに回らないが会話も支障なくできる。残念ながら右手を使った精密な職人仕事は以前のようにスピーディーにはできないが、時間をかければ何とかこなせる。
生きがいと夢を取り戻してくれたハイケアーのメンバー、そして協力してくれた方々の恩に必ず報いる、という執念なようなものが回復を手助けしたものと確信している。しかしながら、水素に何かしらの効果があったように私には思える。
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